土木作業員からプログラマー、そして生成AI開発者へ。多彩なキャリアを歩んできた鈴木さんは現在、地元の木更津を拠点に生成AI開発事業を展開しています。トンネル工事の現場で培った論理的思考力と独学で身につけたプログラミングスキルを武器に、地方が抱える人材不足という課題に挑む鈴木さんの思いと展望を伺いました。
土木作業からAI開発へ、多彩なキャリアの変遷
——鈴木さんのこれまでのキャリアについて教えてください。
高校卒業後、土木会社の現場監督として7年ほど勤めました。主にトンネル工事を担当していて、25歳ごろにフリーのプログラミング開発の方に転身し、現在に至ります。元々パソコンや技術分野に興味があって、『世の中を作っているのはIT技術者だ』と思っていたんです。単純に制作意欲というか、自分も作り手側になりたいという思いが転身のきっかけでした。
——土木作業とプログラミングは全く異なる分野ですが、何か共通点はありますか?
トンネル工事では、シールドマシンのモニターを見ながら微調整する仕事をしていました。数字や角度を見て、計画した進路に沿って進んでいるかを論理的に計算するんです。プログラミングも決められたルールに則って文法にのっとってコードを書いていく。そういう論理的思考を身につけられたのは共通していると思います。
——プログラミングはどのように習得されたのですか?
完全に独学です。Udemyとか指南本を読んだりしましたが、本は別に買わなくてもいいんです。プログラミングはネットで検索すれば先人の知恵が見つかります。困ったら検索して基礎を学ぶ、というスタイルでした。スクールには一切行かず、600万円くらいは節約できたと思いますね。

生成AIとの出会いと可能性への気づき
——生成AIに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
業界ニュースがきっかけです。特にChatGPTの登場は衝撃的でした。テキスト生成AIは根本的なところで、他のAI技術の基盤になっていると思います。今、いろんなAIがありますが、全部根本にはLLM(大規模言語モデル)というテキスト生成AIが使われているんです。ChatGPTがなかったら、ここまでAI技術は進化しなかったと思います。
——初めて自分でAI開発に携わったときの印象はいかがでしたか?
一番印象に残っているのは、マーケティング担当者の名前を抽出するシステムの開発ですね。基本的に人の名前を抽出するのは従来のプログラムでは不可能に近かった。でも生成AIを使えば60パーセントくらいは抽出できる。このとき『今までのプログラムでは不可能だったことが可能になる』と感じました。
木更津から始める生成AI革命

——なぜ地元・木更津での生成AI事業展開に力を入れているのですか?
地方こそAIを使うべきだと思うんです。東大出身の優秀な人材は木更津や千葉県の地方企業には就職せず、東京や横浜の大企業に行きがちです。でも今のAIは知能指数で言えば100を超えています。これは人間でも優秀な部類に入る知能レベルなんです。つまり、地元の木更津の中小企業にとって、AIは『一つ導入すれば優秀な人材が一人入ったのと同等の効果』が得られるんです。例えば営業データの分析や事務作業の自動化など、これまで人手に頼っていた業務をAIで効率化できれば、限られた人員でも大きな成果を上げられます。これが地方の人材不足解消への大きなチャンスです。
——具体的にどのような分野で地元企業と協働していきたいですか?
今後は主にプログラミング開発を中心に地元企業と協働していきたいと考えています。特に中小企業のデータ処理や業務効率化、マーケティング分野でのAI活用に力を入れたいですね。例えば、顧客データの分析や需要予測、さらには人材不足を補うための業務自動化など、地元企業の競争力強化につながる分野で貢献していきたいと思っています。木更津には潜在的な可能性を持った企業がたくさんあるので、それらの企業とのパートナーシップを築いていくことが目標です。
——AIを活用した地域活性化のビジョンを教えてください。
私が目指しているのは、木更津の企業がAIを活用して新たな付加価値を生み出せるようサポートすることです。例えば、地元の小売店が顧客データをAIで分析して個別化されたサービスを提供したり、農業分野でAIによる収穫予測を活用したりすることで、新たなビジネスモデルを構築できます。これまで大企業しかアクセスできなかった高度な技術を、地元の中小企業でも手が届くものにしたいんです。木更津には観光資源や豊かな農水産物など、多くの魅力があり、それらをデジタル技術で最大限に引き出していきたいです。
本業と副業の両立と今後の展望
——ドライバーとしての本業と生成AI開発の副業をどのように両立されていますか?
特別な工夫はないですね。日中はドライバーの仕事、夜はAI開発という感じです。ただ、運転中に新しいシステムのアイデアを考えたりすることはよくあります。移動時間が創造的な思考の時間になっているかもしれません。
——それは面白いですね。運転という一見単調な作業が逆に創造性を刺激するわけですね。今後の展望について教えてください。
いまは開発を軸にしてやっていきたいと思っています。自社サービスの開発よりも、まずは受託開発でお金を貯めて人を雇い、会社としての規模を拡大していくことが当面の目標です。そして将来的には、地方の中小企業がAIを有効活用できるような基盤づくりに貢献したいです。
生成AIが変える人生の可能性
——生成AI開発の経験は、ご自身の人生やキャリアにどのような影響を与えていますか?
普通、人間は一生のうちで極められることは一つか二つです。音楽なら音楽、プログラミングならプログラミングという感じで。でもAIを使えば、一人でいろんな分野のスキルを発揮できる。例えば私の場合、独学で学んだプログラミングの技術でも、AIを使って様々な技術課題に対応できるようになりました。人生の可能性が大きく広がったと感じています。
——最後に、鈴木さんが大切にしている価値観を教えてください。
『日本に生まれたら挑戦するしかない』という考え方です。日本は失敗しても最低限の生活が保障される国です。だからこそ、挑戦した方がいい。地方でも、その安全網の上で新しいことに挑戦できる。AIはその挑戦をさらに後押ししてくれるツールになると思っています。

鈴木さんの話からは、生成AIが地方創生の新たな可能性を開くという希望が感じられました。東京一極集中による地方の人材不足という課題に対して、AIという新たな「仲間」を地域企業に送り込むという発想は、従来にない視点です。多様なキャリアを経験してきた鈴木さんだからこそ見えてきた景色なのかもしれません。今後の活動に注目です。