印刷会社からWebの世界へ、大手広告代理店での経験を経て独立起業。神谷さんのキャリアは、常に新しいことへの挑戦の連続でした。しかし、その道のりは決して困難なき道ではありません。激務、人間関係の難しさ、そして家庭との両立。さまざまな困難を乗り越えながら、神谷さんは自分らしい働き方を模索し続けてきました。そこから見えてきたのは、「人とのつながり」の大切さと「学び続ける姿勢」の重要性。変化の激しい現代社会を生きる私たちに、神谷さんのストーリーは多くの示唆を与えてくれます。
印刷会社からWebの世界へ:変化を恐れない姿勢
神谷さんのキャリアは、大手印刷会社の子会社からスタートしました。大学で新聞学を専攻した彼は、当初は出版社や雑誌社への就職を考えていましたが、バブル崩壊の影響で就職難に直面。そんな中、同社に入社し、印刷物制作の世界に足を踏み入れました。
「通販カタログの制作から始まって、コピーライティング、編集、デザイン、撮影などの幅広いディレクションスキルを学べました」と神谷さんは当時を振り返ります。しかし、7年間勤めた後、彼は大きな決断をします。「Webが出てきて、そちらをやりたいと思ったんです。でも、社内でWeb系の仕事をする機会はなさそうでした」
この決断は、神谷さんのキャリアの大きな転換点となりました。彼は退職し、3カ月の充電期間の後に、制作会社を経て、大阪から東京に拠点も移し、Webの世界に本格的に足を踏み入れることになります。
「新しいことに触れるが好きだったんです。Webは当時、まだ発展途上で、可能性を感じました」と神谷さんは語ります。この「新しいものへの好奇心」は、彼のキャリアを通じて一貫したテーマとなっています。
大手広告代理店グループでの経験:大規模プロジェクトと人脈の広がり
神谷さんのキャリアは、大手広告代理店のグループ会社に入社したことで更なる飛躍を遂げます。ここでは、大手クライアントのプロジェクトに携わり、Webプロデューサーとしてのスキルを磨きました。
「ナショナルクライアントの仕事が当たり前にあるのは、すごいなと思いました」と神谷さんは当時を振り返ります。しかし、その裏には激務があったといいます。「当時の広告業界やWeb業界の働き方はここでテキストに残せないほどのハードさでした。今から振り返ると、本当によくやれてたなと思います。」
この時期、神谷さんは大規模プロジェクトの企画・管理や、新技術の導入など、多くの経験を積みました。特に印象に残っているのは、大手小売企業でのARスタンプラリーのプロジェクトです。「当時はまだスマホが普及していない時代。新しい技術を全国規模で展開するのは、大変でしたが面白かったです」
また、大手広告代理店グループ内での「テック系プロジェクト」的な取り組みにも参加し、業界の最先端の動向にも触れる機会を得ました。「毎月集まって新しい技術や動向について議論する。そこで出会った人たちとの繋がりは、今でも大切にしています」
この時期の経験は、神谷さんのキャリアに厚みを加えただけでなく、人脈の広がりももたらしました。「いろんな人と会い、仕事をともにしていくことが、今から振り返ると人との繋がりになっていっていました」
独立への道:新たな挑戦と自分らしい働き方の模索
前職での経験を経て、神谷さんは独立を決意します。「ずっと前から60歳を過ぎても現役で働き続けたい。そのためには独立なのかという思いはありました。でも、子供のこともあったので、タイミングを見計らっていました」
独立のきっかけとなったのは、会社での役割の変化、テックや社会の変化、自分の働き方などを、コロナ禍のテレワーク環境でひとりで考える時間が増えたこと。このままでいいのかなという思いに至りました」
そして、神谷さんは独立を決意します。「子供の教育費のことも考えて、2年間は収入が下がっても大丈夫という計算をしました」
独立後、神谷さんは「カイダン」という会社を立ち上げます。「新しいことを始める人の相談に乗りたい」という“Stairway to X”というコンセプトから、この名前を選んだそうです。「テクノロジーやマーケティングなどの力で、最初の一歩を踏み出す手伝いがしたいんです」
現在、神谷さんは複数の会社と継続的な仕事をしながら、新しいプロジェクトにも挑戦しています。「スタートアップの成長や老舗企業トランスフォーメーション支援がしたい」と、彼は将来の展望を語ります。
人生100年時代のキャリア観:常に学び、つながり続ける
神谷さんのキャリアを通じて見えてくるのは、「常に学び続ける姿勢」と「人とのつながりの大切さ」です。
「新しいことを知ることが大切です。ポッドキャストを聞いたり、オンラインサロンに参加したり。視野を広げないと、判断できる範囲が狭くなってしまいます」と神谷さんは言います。
また、人とのつながりについても強調します。「これまでにいろんな困難に直面しましたが、その度に誰かが手を差し伸べてくれました。その時はすごく助かったし、感謝の想いは今も続いています。そんな経験をしていると、他の人からの相談事もなるべく応えたい。そんなやり取りが結果的に人の繋がりになっていくのかもしれません。でも、それは意識して数を増やそうとするものではなく、自然と築かれていくものだと思います」
神谷さんは、若い世代へのアドバイスも忘れません。「やりたいことがあるなら、そのための準備を始めることが大切です。でも、100%準備ができてからでないと始められないわけではありません。少しずつ試していくことも大切です」
最後に、神谷さんは「幸せ」について考えを述べます。「仕事で『ありがとう』と言われることは嬉しいですが、それだけが幸せではありません。家族や友人との関係も大切です。自分の頭で考えて、自分なりの幸せを見つけていきたいですね」
神谷さんのキャリアストーリーは、変化の激しい現代社会において、どのようにキャリアを築いていくべきかを示唆しています。新しいことへの挑戦、人とのつながり、そして自分らしさを失わない働き方。これらは、人生100年時代を生きる私たちにとって、重要なヒントとなるでしょう。
文・師田賢人