メディアで記事やレビューを発信しようとするとき、重要な取材方法の一つがインタビューです。慣れないうちは不安も大きいインタビューについて、本記事ではそのポイントや失敗しない方法をまとめました。
なお、このインタビューについては主に、文字として発信する場合を想定しています。
インタビューは「伝えたい言葉」が飛び立つ場
慣れないうちは、「どうしたら先輩のように良いインタビューができるのか?」と心配になるかもしれません。しかし過度な心配はいりません。多くの場合、インタビューの相手も伝えたいことがあって取材を待っています。
情報の中心にある「人の言葉」
メディアでもSNSでも、多くの情報が飛び交っています。注意してみれば、飛び交っている情報の中心に「人の言葉」があることが感じられるでしょう。
グルメや旅・ホテルの情報なら、実際に食べた人、泊まった人の感想が重要です。新商品・サービスの紹介においても、それまでは「何が不便だったのか」、新たな商品・サービスで「何が良くなるのか」が必ず語られているはずです。語り手は見えないかも知れませんが、語っている人、そのメッセージを考えた人が必ずいます。
この、「メッセージを確認する場、聞き出す場」がインタビューです。
「伝えたい言葉」が出回っている
多くのインタビューは、取材者と、伝えたいことがある当事者・関係者との間で行われます。
メディアやネットで飛び交っている情報の中には、隠しておきたかったのに、何らかの意図で誰かによって暴かれてしまったものもあります。不正行為や事件・事故に関する情報には、そういうものがあります。しかし、こうした情報を見つけ出し、確認、発信するのは新聞やテレビの記者などごく一部の人です。情報を確認するためのトレーニングを重ね、長い時間をかけて取材し、何人もの人に、時には強く嫌がれながらインタビューしますが、こうしたインタビューは「例外的」です。
インタビューは伝えたい言葉と伝える人が出会う場
つまり、多くのインタビューは、「伝えたい想いや情報を持った人」が「実際に伝えてくれる人」と出会う場です。世の中に飛び出していくのを待っている言葉が飛び立っていく場、と言うこともできると思います。
そのインタビューは何のため?
インタビューで何を聞いたらよいか分からないというときは、なぜそのインタビューをするのか、考えてみましょう。何かの媒体からインタビュー取材の依頼を受けた場合は、なぜその媒体がそのインタビューを載せるのかを考えてみましょう。
伝えたいことを整理しよう
誰かにインタビューするとき、あるいはどこかの会社やお店にインタビューするとき、世の人々に対して「伝えたいこと」があるはずです。
例えば、おいしい中華料理を紹介するなら、おいしさの秘密や料理の秘訣かも知れません。新しいコスメについての記事なら、製品開発の工夫や苦労を伝えようとしているかも知れません。
インタビューする前に、今回の記事では誰に何を伝えたいのか、それを考え整理することが、失敗しないインタビューのための第一歩です。
伝えたいものが決まっているケース
インタビューをする場合、伝えるものが明確に決まっていることもあるでしょう。
例えば、「最近、駅前に開店した洋菓子店の紹介」とか、「老舗の和菓子店が売り出す新商品の紹介」などです。こうした場合にインタビューで聞くことは、お店や商品の特徴や魅力、開店や新商品発売の経緯などでしょう。
伝えたいテーマは決まっているが、具体的な内容は不明確なケース
これに対して、テーマは決まっているが内容はインタビュー次第という場合もあります。
「今、〇〇駅前がラーメン激戦区に」というテーマで駅前のラーメン店の1つにインタビューする場合、そのお店のことだけを聞いてもテーマに迫れません。テーマを象徴する例としてインタビューをするからです。
「エコやSDGsを意識した取り組みが広がる」といったテーマだと、世の中の動きや社会的なテーマについての下調べも必要になるでしょう。
インタビューに必要な事前準備とは
当日のインタビューの前にしておかなければならないことがあります。事前の準備についてまとめてみました。
すでにスケジュールが決まっている場合
メディアの編集部などがインタビュー取材を依頼し、インタビューの概要やスケジュールがすでに決まっている場合があります。
その場合でも、インタビューで話を聞く相手や担当者の連絡先は分かっていると思いますので、事前にメールなどで連絡し、自分がインタビューを担当することを伝え、「当日よろしくお願いいたします」とご挨拶しておくといいでしょう。当日のトラブルや急な時間変更などに備え、自分の携帯電話を伝えておくこともおすすめです。
取材依頼・アポイントメントから担当する場合
取材依頼から担当する場合は、インタビューしようと考えている相手、会社や事務所に所属している人の場合は広報担当者にコンタクトし、インタビュー取材を申し込みます。メールなどで「取材依頼書」を作成して送り、インタビューを受けてもらえるように依頼します。取材依頼書のポイントは2点「インタビューの趣旨=なぜ、あなたにインタビューをしたいのか」と「質問の内容=聞きたいことは何と何か」です。
取材依頼書には、以下のような内容を盛り込みます。
- インタビューの趣旨
- 掲載・公開する媒体またはサイト
- 掲載・公開の予定日・時期
- 質問の内容
- 所要時間
- いつまでにインタビューをしたいか
- 写真撮影の有無
- インタビュー取材の場所
- 自分やメディアの連絡先
インタビュー内容についての下調べ
伝えたいもの(具体的な商品・サービスなど)が明確に決まっている場合は、そのものについて分かっていることを整理・確認した上で、分からないことやより詳しく知りたいことを調べます。取材依頼から担当する場合は、その下調べも踏まえて、質問の内容を考えます。
基本となるのは、5W1Hです。
When(いつ) | いつ発売したのか・いつ開発したのか |
Where(どこで) | どこで売っているのか・どこで使えるのか |
Who(誰が) | 誰が開発したのか・誰が販売するのか |
What(何を) | その商品・サービスはどのようなものか・特徴は何か |
Why(なぜ) | その商品・サービスはなぜ生まれたのか |
How(どのように) | その商品、サービスはどのように作られたのか |
whyと howを赤字にしている理由は『ポイントはwhyとhow』の章で後述いたします。
「伝えたいテーマ」は決まっていて具体的な内容を決めかねている場合は、そのテーマに関する下調べも必要です。
著名人・有名店・広く知られている商品なら基礎固めは常識
インタビューをして伝えようとするものが有名店やすでに広く知られている商品であれば、そのものについての情報はすでにかなり出回ってるはずです。そうした情報を確認することは「常識」と言ってもいいでしょう。
すでに広く知られている情報は、記事を見る人にとっても新鮮さがありません。インタビューを受ける人も忙しいことが多いので、「そのインタビューなら受ける意味がない」と思われるかも知れません。基礎的な情報を押さえた上で、知られていないことや新たな切り口を探しましょう。
商品・サービスではなく、人を紹介するためのインタビューもあります。著名人、有名人であれば、多くのインタビューも受けています。それらの情報を確認した上で、聞きたいことを整理しましょう。
テーマや質問内容の整理はインタビュー成功のカギ
インタビューで聞き取るべきことを事前に整理し、インタビューをする側と受ける側で質問内容を共有しておくことが重要です。インタビューを受ける人にとっても、回答を事前に考え、伝えたいことを整理することができるようになります。
インタビューする側にとっては、著名人や有名店の取材では緊張することがあるかも知れませんが、事前準備に力を入れることで自信が持てれば、あまり気後れすることなくインタビューが実施できるようにもなるでしょう。
取材相手によっては、インタビューに関わりのある資料を事前に提供してくれることもあります。こうした資料があれば、事前にしっかり読み込んでおくことも効果的です。
インタビューに持っていくもの
インタビュー取材に欠かせないものがいくつかあります。そうしたものを紹介します。
ノートとペン
屋外で取材する記者などでは、手のひらサイズの手帳にメモを取ることもありますが、ほとんどのインタビューは、屋内でテーブルか机のある環境で実施されると思います。B5サイズ、もしくはA4サイズのノートが使いやすいでしょう。ペンは、使い慣れたもの、使いやすいものがいいでしょう。
最近では、会議や記者会見などで、発言をパソコンでそのまま記録することも増えています。しかし、インタビューは、向かい合ってコミュニケーションを取ることが基本です。パソコンのキーが連打される環境は、コミュニケーションのためには、望ましくはないでしょう。
ICレコーダー+予備の録音機
スマートフォンでも録音は可能ですが、通話や通知で録音が途切れたり、部分的に音声が聞き取れなくなったりすることもあります。ICレコーダーなど、専用の録音機を用意しましょう。
電池切れや何らかの不具合、録音を開始したつもりができていなかった、など、トラブルに備えて、複数の機器で録音するのが確実です。同行者がいる場合は、同行者にもICレコーダーなどで録音してもらいましょう。同行者がいない場合、予備の録音であれば、スマートフォンの活用もありでしょう。
カメラ
最近のスマートフォンは、カメラとしての性能も向上しています。しかし、多くの場合、一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラの性能には、まだ及びません。インタビュー時の写真撮影のため、通常のカメラを持参しましょう。
世代によっても差はあるでしょうが、スマートフォンで撮影するライターよりも、しっかりとしたカメラを構えて使いこなすライターの方に、「プロっぽさ」を感じ、信頼感を持つ人もいるでしょう。「スマートフォンで撮影」ということで、気後れしてしまうこともあるかも知れません。
時計
多くの場合、インタビューのためにもらっている時間は限られているので、時間配分を考え、聞き漏らしなく質問することが重要です。
スマートフォンやICレコーダーの表示で時間を確認することは可能ですが、「何か違うことをしている」と思われてしまうかも知れません。腕時計が無難でしょう。
予備の電池やバッテリー
インタビューの最中や撮影中に、ICレコーダーやカメラ、スマートフォンの電池やバッテリーが、予期せずなくなってしまうこともあります。事前に充電しておく、残量を確認しておくことも大切ですが、予備の電池が対処も可能です。
失敗しないインタビューの進め方
あらためて録音を始めることの許可をもらい、録音を開始します。そして、ノートに内容をメモしながらインタビューを進めていくことになります。
相手の緊張をほぐすために
何度か会っている人なら別ですが、初対面というのは何かと緊張するものです。インタビューとなれば、やり取りがぎこちなくなることもあります。インタビューや取材に慣れていない人であれば、録音されたり、答えたことが目の前でどんどんノートに書かれるというのは、緊張する体験です。
緊張をほぐす、相手の気分を上げるために、例えば、以下のような話題を最初に振るのもいいでしょう。
- その人が評価されていることや、最近の成功エピソード
- 自分と相手の共通の話題:出身地、勤務先や同業の経験、好きな食べ物など
インタビューの時間に余裕がなく、すぐに本題に入らなければならないこともあります。そんなときには、インタビューの意図をしっかり説明してみましょう。「なぜ、あなたにインタビューしようと思ったか」「このインタビューで何を伝えたいと思っているか」をあらためて伝えることができれば、失敗のリスクは大きく減ります。相手も伝えたいことがあるから、インタビューを受けているのです。
取材後の原稿確認の有無を確認
インタビュー記事の場合、新聞やニュース系の一部の媒体以外では、インタビューした相手に掲載・公開前に原稿案を確認してもらうことが多いと思います。
記事は編集されていて一字一句、話した通りに記事になっていることは、まずありません。実際の原稿確認では、インタビューでの発言に不適切な内容が含まれていたため修正するケースも多くあります。また、発言の趣旨や意図を間違って受け取って表現してしまっていることもあります。
しかし、これを見越して「後で修正もできますよ」と伝えた上でインタビューを行うことで、相手がかなりリラックスして話すことができるようになります。
自分の緊張をほぐすために
経験を積むほど慣れていきますが、自分が緊張していると思った通りのインタビューは難しいでしょう。緊張をほぐすために、次のようなことをしてみましょう。
- 入念な下調べと、質問内容の把握
- 追加の取材や内容確認の可否
- さりげなく自分のキャリアや代表作を紹介
ポイントはwhyとhow
インタビューを始めたら、基本的には事前に共有した質問内容に沿って進行し、相手の話を聞きましょう。質問は、5W1Hを基本につくっているはずですが、読者の共感を呼ぶために大切なのは、「why(なぜ)」と「how(どのように)」です。
「when(いつ)」「where(どこで)」「who(誰が)」「what(何を)」は、基本の要素で、これらの情報が欠けてはいけないですが、インタビューでなくても確認できる情報です。ニュースリリースにも、載っていることが多いでしょう。
「why(なぜ)」や「how(どのように)」に関する情報も、プレスリリースには載っているでしょう。その商品を開発した理由、そのサービスを形にするための経過などが触れられているかも知れませんが、それを形にした人の思いや試行錯誤こそが人の心に届きます。
かつてNHKで「プロジェクトX 挑戦者たち」というドキュメンタリー番組がありました。家庭用ビデオ規格についての「窓際族が世界規格を作った VHS執念の逆転劇」や、「妻へ贈ったダイニングキッチン 勝負は一坪・住宅革命の秘密」などが大きな反響を呼びました。番組の大半はwhyとhowの話でした。
商品でもサービスでも、伝えようとするものの背景にある思いに迫るのがインタビューです。
インタビューがうまくいかない、どうする?
事前に準備をしても、インタビューがうまく進まないときがあります。そんなときは、どうしたらいいでしょう?
話が脱線してしまうとき
聞きたいと思っていたことを一通り聞いた後であれば、事前の想定と違う話が出ても問題ありません。そこから次の取材・記事につながったり、関係が深まったりすることもあるので、ぜひしっかり聞いてください。
一方で、聞こうと思っていた話が聞けていないときには、タイミングをみて、「すいません、大変興味深いお話しなのですが、今日はお時間も限られているので、こちらのこと、教えていただけますか」と振ってみましょう。
話が途切れて困るとき
話下手な人、コミュニケーションが得意ではない人もいます。質問に対して答えが返ってくるなら、まずはよしとしましょう。
答えも返って来ず、会話が止まってしまうようなら、下調べや資料をもとに、「これは、こういうことですか?」と確認しましょう。ときには推測を交えることも大事です。違っていたら、「では、こういうことでしょうか?」と別の回答を出し、確認を求めましょう。
商品・サービスの企画などでは、「会社の指示だから」といった回答で止まってしまう人もいるかも知れません。その場合は、ビジネスを取り巻く課題やニーズ、マーケットの状況などについて質問してみましょう。
話が盛り上がらないとき
回答は返ってくるものの、その人自身の思いが感じられない回答が多いことがあるかも知れません。事前に用意された回答、それもその人以外が作ったものを読み上げているだけかも知れません。そんなときは、その人自身の思いや感想を聞く質問を投げ掛けてみましょう。
例えば、洋菓子の話で盛り上がらないなら、「ところで、お料理はどんなものが得意ですか?」とか「今日の朝ごはんには何を食べました?」などと聞いてみます。チャットサービスの取材のときには、「1日中、パソコンの画面を見続けるって、嫌じゃないですか?」といった具合です。
「ところで、ご出身は?」などと聞くことで、インタビューの雰囲気が変わるかも知れません。
写真撮影は後半または最後に
後半になるほど緊張がほぐれ、話が盛り上がることも増えるでしょう。表情が和らいだり、身振り手振りが増えたりもします。同行者がいる場合は、同行者に写真を撮ってもらうか、同行者に相手と話をしてもらって自分が撮影するかします。
自分1人でインタビューに行った場合は、話をしながら、表情が和らいだ場面や身振り手振りが出たところでシャッターを切ります。
インタビューの最後に
インタビューが終わったら録音を止め、ノートを閉じてペンも置きます。経験的に、この後にすごくいい言葉が出ることがよくあります。インタビューの余韻と、インタビューが終わった解放感からだと思います。これを決して聞き漏らさないようにしましょう。
インタビューのお礼を伝え、原稿確認の時期や方法を確認して、場を辞します。
まとめ
インタビュー上達のためには、経験を重ねるのが一番です。経験豊富な人のインタビューに同席するのもいいでしょう。原稿作成のスキルアップも兼ねて、原稿を添削してもらったり、セミナーを受講したりするのも効果があるでしょう。