言葉の向こうに、その人がいる。

interview

「海と人との課題は解決できる」打席に立ち続けたからわかった、圧倒的熱量の見つけ方

「一生をかけて打ち込めるものを見つけたい」。よく耳にする願いである。
なんとなく興味をもっている分野はある。でも、本当にこれでいいのか。「自分にはこれしかない」と自信をもって言えるのか。
そんな迷いをもつ人が多いように見受けられる。

「海に関することならば、どんなに大変なことでも乗り越えたい。成功の秘訣はやめないこと。それってやっぱり好きじゃないとできないんですよ」

そう語る廣田 諒(ひろた・りょう)氏は、海のSNS型プラットフォームアプリ「Be-conn」を開発・運用する株式会社ビーコンの代表取締役である。
廣田氏の働き方は精力的だ。朝の8時半から夜中の1〜2時まで、休日もなく活動し続けているという。
周囲からは「大変ですね」と言われるが、当人から悲壮感は全く感じられない。むしろわくわくしながら仕事にコミットしている様子なのだ。実際、会社員時代より落ち込むことが減り、人生の満足度も上がっているという。

廣田氏の海に対する思いには、迷いが感じられない。そのひたむきさは、一体どこから来るのだろうか。
「仕事とプライベート、分けたらもったいない」と語る廣田氏の「Work as Life」からは、圧倒的な「好き」との出会い方が見えてくる。

あれこれ寄り道したけれどやっぱり「海」だった

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廣田氏は幼少期から海と共に育ってきた。
海に関する課題意識の始まりはライフセーバー時代。大学での学びのかたわら数々の大会に出場し、ライフセーバー日本代表として活躍していた頃だ。

大学卒業後はオールアバウトに入社したが、海の課題解決をしたいという思いに突き動かされ1年で退社。旅行会社HIS社長の澤田氏が主宰する澤田経営道場にて経営を学んだ。

澤田経営道場にエントリーする時点で、廣田氏の頭にはもちろん海への思いがあったという。しかし、澤田経営道場で海に関するビジネスの構想だけに2年間を費やしたかというと決してそうではない。

観光物産公社のフロアマネージャー兼DMO推進室として、企画や提案、プロジェクトの実施を担当した。また「鬼滅の刃コラボ企画」のイベントメニュー統括者として新規レストランの立ち上げを支援。他にも和歌山県観光課とともに誘客コンテンツの作成にも取り組んだ。

その過程について廣田氏は、「『やっぱり海だな』と思えるまでに、2、3周していますね」と語る。海以外にもいろいろなビジネスに携わってきたのだ。

気になることがあると、関係者に会いに行って話を聞く。実際にプロジェクトに関わってみる。そのような現場主義が廣田氏に多くの経験値をもたらした。
数多くのトライアンドエラーの後、納得してとことん向き合えるものはやはり海に関わることなのだと「腑に落ちた」。
改めて課題を見つめ直して生まれたのが、現在のビジネスモデルなのだという。
それは、興味の赴くままに多様なビジネスに関わり人と出会ってきたからこそ見えた「最適解」だった。

このような試行錯誤の過程を廣田氏は「打席に立つ」と表現する。
「ちょっとでも興味をもてることがあれば、思い切って踏み込んでみる。その経験が点となり、点と点がつながった時に、何かひとつの形として見えてくるんですよ」
そのプロセスを経てきたからこそ、今の廣田氏には「海」というはっきりした形が見えている。

現在多忙な日々を送る廣田氏。時には疲れ、回復が必要だと感じることも当然ある。
そんな時に行くのは、やはり海なのだ。
「海が僕のライフセーバー」と語る廣田氏は、波乗りをすることで勇気づけられ、元気を得ている。海を愛する人の現場感覚を失いたくない思いもあるというが、やはり廣田氏にとって心やすらぐ場所が海なのだろう。

”海ってやっぱいいよね”ということを地球上の誰もが知っている世界を作れたら、海と人との関係はより持続性の高いものになっていくと思うんですよ
そう語る廣田氏がビーコン社で掲げるビジョンは「海からエンパワーメントされる経験を、地球上の誰もが知っている世界に」。海に恩恵を受けてきた1人として、海が人々のよりどころになり、心の豊かさにつながればと考えている。

だから、今の廣田氏はブレることがない。スタートアップとしてたくさんの壁にぶつかるが、海への思いがあるからあきらめずに取り組むことができているのだ。

テクノロジー×市民 海への思いから生まれたアプリ事業

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ここで、廣田氏が率いる「ビーコン社」が展開している事業を改めて見てみよう。
現在同社の主力となっているアプリ「Be-conn」は、モニタリングによって海岸侵食、海洋汚染、サンゴの白化などの問題を検知し、解消につなげるものだ。
市民がテクノロジーを活用することで地域が抱える課題の解決をめざす「シビックテック」の考え方に基づき開発された。
このアプリでは、ユーザーの相互投稿が海の課題解決の鍵を握る。ユーザーは海に関する情報や海の画像・動画を自由に投稿する。そうして得られた情報をもとに海の状況をモニタリングする。加えて、海から離れた所にいるユーザーも海の安全性や波の状態、天候、周辺情報を知ることができるのだ。

海の人との間に存在する課題は、定期的にモニタリングすることにより解決の道筋が見えるのだという。日々を海で過ごしていた廣田氏の「最近、海岸の砂が減っているんじゃないか」という肌感覚がモニタリングの重要性に気づくきっかけになった。

日々のモニタリングがなぜ重要なのか。それは、モニタリングができていないと対策が後手に回るからだ。海洋汚染は静かに進行する。海岸侵食の場合はさらに深刻だ。海岸の脆弱性に気づかないまま侵食が進むと、災害に繋がってしまう恐れがある。

ではなぜ、スマホカメラによるモニタリングなのだろう。定点観測カメラの設置や業者と提携してのモニタリングではいけないのだろうか。
そこにはまず、コストの問題がある。測量業者に依頼すれば高額になり、自治体や地域住民にとっては負担が大きい。
加えて、ライブカメラ設置には天候と精度の問題がある。災害や海岸の脆弱性、砂の量をモニタリングするためには、悪天候のときにこそ情報が欲しい。しかし定点観測のライブカメラの場合、雨粒や潮に阻まれ、解析に耐える画像が得られないのだ。
そこで参考にしたのがオーストラリアのアプリ「Coast Snap」だった。ユーザーが海岸の画像を撮って登録することにより、プロの海岸調査チームと同様の精度で海岸線の位置などをモニタリングできるものだ。

リリースからわずか1年あまり、「Be-conn」アプリ事業は順調に伸びている。地域住民や観光客の巻き込みが功を奏してアクティブユーザーが増え、アプリ自体の認知度も上がっているのだ。

しかし廣田氏によればこのアプリは「あくまで手段のひとつ」にすぎない。
廣田氏が見据えているのはもっとスケールの大きな夢。「海と人との間の課題を解決したい」という思いなのだ。

「結局は人なんだ」縁が運んでくるビジネス発展の予感

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テクノロジーばかりが注目されがちですが、結局はその周りにいる”人”なんですよ。逆に言うと、人でしかない」
そう語る廣田氏は、人との縁を何より大切にしている。相手に対するリスペクトを忘れず、謙虚な姿勢で向き合うことを自分に課しているのだ。
そんな廣田氏の「後世に誇れる海を残したい」という理念は、だんだんと渦を巻き始めている。共感する人たちの輪が広がり、現在、海を起点に、さまざまなビジネスが有機的に発展しているところだ。

たとえば、海洋プラスチックを原料にしたサンダルの開発がそれに当たる。現在、特許取得に向けて動いているのだという。
「海沿いの人ってみんなサンダル履くんですよ。海洋プラスチックをリサイクルしたものを履いてもらって海の課題解決につなげられたらと。でもそれだけじゃなくて、たとえば都内で履いてもらってもいいですよね」海洋プラスチックを活用したサンダルを開発し販売することは、まさに海が抱える課題を持続可能な形で解決するものだ。クラウドファウンディングでリリース予定なのだという。

その他にも、観光に関わるアプリの開発や海をテーマにした施設を作る構想も進んでいる。将来的にはジムやレストラン、研究室などを含んだ総合施設を作りたいと考えているのだ。
どのプロジェクトでも、根底にあるのは「海と人との架け橋になり、後世に誇れる海をつなげたい」という思いだ。

現在、ビーコン社は大きな飛躍の予感を抱いている。
海への思いを原動力にコツコツと取り組んできたことで、ビーコン社が創業以来抱えてきたある「壁」が乗り越えられそうなところまできているのだ。
「まだはっきりとは公表できないのですが、これまでなかなか動かせなかったところを動かせるかもしれません。今年は面白いことになりそうです」と廣田氏は語る。詳細を明かせないところに、ビーコン社が今まさに越えようとしている「壁」の高さがうかがえる。

ますますビジネスが発展する手応えを感じているビーコン社。
その視線の先にあるのは「海と人との間にある課題解決」であり、廣田氏が打席に立ち続け点と点をつなげてきたからこそ見えている世界だ。

取材・文:中村 藍

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師田賢人

師田賢人

インタビュー・ライター

Harmonic Society株式会社 代表取締役。一橋大学(商学部)卒業後、Accenture Japanに入社。ITコンサルタントとして働いた後、スタートアップ企業にWebエンジニアとして転職。2016年に独立したのち、Webライターとして100社以上と取引。経営者や著名人、大学教授ら200名以上に取材、執筆に従事する。2023年3月にHarmonic Society株式会社を設立し、経営者をはじめさまざまな事業者へ取材・撮影をして記事を制作している。

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